序章──再び訪れる“分断”の時代
かつて冷戦期の世界は、資本主義陣営と共産主義陣営という明確な「ブロック」に分断されていました。
そして今、私たちは再び「ブロック経済化」という潮流に直面しています。
その背景には、トランプ政権による関税政策の復活、米中対立、ロシア・ウクライナ戦争、そして各国で高まる安全保障志向があります。
グローバル化によって築かれた「安く・大量に・効率よく」モノを動かす仕組みは揺らぎ、世界は複数の経済圏に再編されつつあるのです。
この変化は単なる国際政治の話ではありません。日本企業、特に中小企業にとっては「原材料コスト」という極めて実務的な問題として直撃してきます。
第1章──ブロック経済化が意味するもの
ブロック経済化とは、同盟国・友好国とだけ経済的結びつきを強め、対立国との取引を制限する流れです。
これは大きく三つの側面で表れています。
1. 関税・輸入規制の強化
→ トランプ政権は鉄鋼やアルミなどに高関税を課し、米国市場を保護しようとしています。
2. 金融システムの分断
→ ロシア制裁でSWIFTから排除されたように、ドル中心の国際金融に対抗するブロックが形成されつつあります。
3. サプライチェーンの再編
→ 重要な半導体やエネルギー資源は「友好国から調達する」ことが重視され、調達先が限定されます。
こうした動きは、必然的に「調達コストの上昇」を引き起こします。
第2章──インフレはなぜ進むのか?
世界的なインフレがここ数年で加速しています。その背景には、単なる金融政策以上の「構造的要因」があります。
• 関税によるコストプッシュ
輸入品に高関税がかかれば、当然ながら価格は上がります。
• 効率性の低下
グローバルサプライチェーンが分断され、各ブロックで冗長化投資が求められ、生産コストが膨らみます。
• 在庫・備蓄の増加
安全保障リスクを背景に各国が資源を抱え込むため、需給バランスがタイト化。結果的に市場価格を押し上げます。
IMFやOECDは「地政学的分断が進めば、世界のインフレ率は恒常的に0.3〜0.5%高まる可能性がある」と警告しています。
これは金融政策で一時的に抑えられるインフレではなく、構造的に続くインフレです。
第3章──原材料はなぜ高騰するのか?
特に影響を受けやすいのが「原材料」です。
1. エネルギー資源
石油・天然ガス・石炭はいずれも地政学リスクの直撃を受けやすい分野です。LNGは輸送に時間とコストがかかり、欧州がロシア依存を脱した際には価格が跳ね上がりました。
2. 金属資源
銅・ニッケル・レアアースなどはEV・再エネ需要で需給がタイト化。中国やアフリカに偏った供給構造がブロック化によってさらにリスクを増します。
3. 化学原料・肥料
天然ガス価格に連動して上がるアンモニア・尿素、石油に依存する基礎化学品。農業や食品業界にも波及します。
これらは一時的な需給変動で下がることはあっても、構造的には高止まり圧力が続くと考えられます。
第4章──日本市場への直撃
ここで日本の立場に目を移しましょう。
• 輸入依存度が高い
日本はエネルギー資源の9割以上、食料の6割以上を輸入に頼っています。つまり「買う側」としてブロック化の負担をモロに受ける立場です。
• 円安の追い打ち
世界的に同じ価格でも、円が安くなれば日本企業にとっては「実効価格」がさらに上がる。2022〜23年の円安局面では、原油・小麦などの価格上昇が生活必需品に直結しました。
• 価格転嫁力の弱さ
欧米企業はコスト上昇を販売価格に転嫁できますが、日本の中小企業は「取引先からの値下げ圧力」が強く、結果として利益を圧迫されやすい。
つまり日本市場は、世界の中でも「原材料高騰の影響を最も強く受ける国の一つ」なのです。
第5章──企業に求められる生存戦略
この環境で日本企業が生き残るには、二つの視点が欠かせません。
1. 調達力の強化
商社に丸投げするのではなく、自ら海外サプライヤーを選定し、直接交渉する力を持つ。中小企業であっても「商社機能」を部分的に内製化する必要があります。
2. 分散化とリスク管理
調達先を一国依存にせず、複数ルートを確保する。特にアジア、南米、アフリカといった新興国からの調達を模索することは、今後のレジリエンス強化に直結します。
第6章──「高止まり時代」をどう乗り越えるか?
原材料の高騰は「一時的なショック」ではなく「時代の構造変化」と考えるべきです。
かつての高度成長期のように、安い資源と労働力を世界中から集めてモノを作る時代は終わりつつあります。
では、この高止まり時代に日本企業がどうすべきか。
• 内製化できる部分は国内へ
• 海外調達はリスクを分散して直接交渉へ
• 付加価値をつけて価格転嫁する力を磨く
この3点が、中小企業にとって「生存戦略」となります。
終章──危機の中にこそチャンスあり
ブロック経済化は、確かにコスト上昇と不確実性をもたらします。
しかし同時に、それは「構造の転換」を促す契機でもあります。
世界の中小企業がすでにやっているように、日本の中小企業も「商社依存からの脱却」「直接取引へのシフト」に挑戦することができます。 原材料の高止まりは逆に言えば、調達力を強化できる企業とそうでない企業の差をはっきりと浮き彫りにするでしょう。

