原材料を扱う仕事は、本当に楽しく、意義深いです。
それは、すべての製品の出発点に触れる仕事だからです。
どんな製品も、最初は一粒、一滴の原料から始まります。
私が歩んできた20数年は、有機ファインケミカルから材料化学、表面技術、食品化学、化粧品、医薬部外品まで、
まるで産業大陸を横断する旅のようでした。
染料メーカー、医薬品メーカー、農薬、界面活性剤、半導体、液晶、有機EL──。
関わる分野が変わるたびに、扱う原料も、技術も、出会う人も一変しました。
そのたびに新しい世界が広がり、飽きることがありませんでした。
特に印象深いのは電子部品業界です。
半導体の微細化から始まり、液晶、そして有機ELへ。
技術の進化に合わせて、原材料も年単位で変化しました。
昨日まで最先端だった素材が、明日には旧世代になる。
消費者が目にする最終製品で見れば──
写真フィルムがデジカメへ、ディスクマンがiPodへ、そしてそのすべてがスマートフォンへと集約されていく流れ。
その背後では、原材料供給の系譜もまた同じスピードで進化していました。
そのスピード感が、たまらなく刺激的でした。
海外から原料を探す作業は、まるで宝探しのようでした。
何百というサプライヤーの中から、お客様の要求にぴたりと合う“宝石”のような原料を見つけ出します。
それを納入し、お客様の製品が進化していく瞬間に立ち会えたときの喜びは、営業というより「共創者」
としての誇りでした。
この仕事を通じて、私は世界の技術、人、文化とつながることができました。
どの国にも、ものづくりに情熱を注ぐ人たちがいます。
その情熱が化学の力で結びつき、社会を変えていくのです。
原材料の世界は地味に見えて、実はダイナミックです。
原材料ビジネスは、私にさまざまな業界のニーズに応える地力をつけてくれました。
振り返れば、私はずっと “変化の現場” にいました。
製品が進化するたびに、原料が変わり、その選択が産業の未来を決めていく。
そう考えると、原材料ビジネスとは“未来の入口”を担う仕事だったのだと思います。

